web2.0の本質と行方

Web2.0の本質とは•••。開放性を持った「あちら側」を利用したシステムと、完全に閉鎖的でなければけない「こちら側」のシステムのコスト差が、一万倍、十万倍•••と大きく広がっていくというのが事の本質である。それだけのコスト差が出れば、徐々に経済合理性が働き、少しずつ大企業の情報システムも•••動き始める。チープ革命Web2.0、IT産業は再び大激変に見舞われる。それが次の十年の間に必ず起こるはずだ。

このように梅田望夫ウェブ進化論(129頁等)には、web2.0の本質が示されている。セキュリティの視点では部外者にアクセスされないよう閉鎖して隔絶したい、が、開発と管理コストを一事業者が全部抱え込むことができるだろうか。また社会全体としても知的資源を広く共有し、効率的かつ経済的に運営し発展させることが得策であり賢明でもある。このセキュリティとコスト•効率の調和の工夫が今後のweb2.0の行方を決めるだろう。

大河ドラマは「花然ゆ」の方がふさわしいのでは。

大河ドラマ「花燃ゆ」は「花然ゆ」が正しいのでは、と家族に指摘され驚きました。

確かに人口に膾炙する杜甫の絶句は《江碧鳥愈白 山青花欲然 今春看又過 何日是歸年》。「山青クシテ花然(も)エント欲ス」。花が燃えると聞いて思い浮かぶ古典の原文では確かに、「花は『然』えて」います。

然」は「燃」と同じ意、又、杜甫の絶句は、焔をあげるように紅く鮮やかに咲く描写、との説明もわかります。ただ「然」には下に点々というか、烈火が付いて、原意は「火で犬の肉を炙る」。 

火偏はなくとも本来「燃える」意を含むという「然」を用いて、「花然ゆ」とした方が相応しいと思いますが、いかがでしょうか。

デジタル化された社会の生きにくさ

コンピュータ、情報の専門家、東工大の徳田雄洋先生の『デジタル社会はなぜ生きにくいか』(岩波新書2009年刊)を、その表題にひかれて読み始めました。

操作がわかりにくいし突然不具合が生じる「情報機器との格闘」、全体に責任を持つ管理者のいないインターネットに大量に蓄積される「情報の洪水」、その中で有害サイト、巧妙な詐欺、個人情報の流出、サイバー攻撃といった「リスク」にも曝される。

先生はこうした困難がもたらされる五つの理由を上げています。①ハードウェアの継続的成長、②ソフトウェアの絶え間ない変化、③知識伝達の不全、④社会制度の緩慢な対応、⑤ウェブサービスは無料が標準。

そして、改善による対応が可能という立場で、注意すべき「生きるための心構え」(例えば、半分信用しない、とか、依存しすぎない、など)を説かれるのです。

が、表題から想像したデジタル社会の生きにくさを見極めるといった私の問題意識には、技術への強い信頼といいますか、生きにくいけれど生き抜くしかないという科学者のやや楽観的にも見える確信が印象として残るのでした。


米国は世界経済の擬似的な政府部門。

複雑な世界経済を理解する上で八代尚弘先生はとても有益で巧みなコメントをされているので、やや長文になりますが引用させていただきたい。

 《国際通貨を供給している米国は、世界経済にとって、いわば擬似的な政府部門と見なすこともできる。これは、米国の経常収支赤字の拡大の原因は一国の財政赤字と同様に景気を刺激する一方で、逆にその縮小や財政再建はデフレ効果をもたらすからである。

  米国債は各国の国債流動性を確保するための外貨準備として用いられているが、これは政府の借金である国債が、家計や企業の金融資産であることと同じである。いずれも、乱発されなければ信頼性の高い資産としての価値を有している》(八代『反グローバリズムの克服』65頁)。

「現在の米国の経常収支赤字の規模は•••日本、独、中国等の黒字額 の合計にほぼ匹敵している」との指摘もなるほどと思わせます。

90年代のICT投資が日米逆転の真相。

1990年代の米国経済活性化について、経済学者の八代尚弘先生は「ICT関連投資を中心とした設備投資の高い伸びが、それ自体による需要拡大効果と、その成果としての労働生産性の高まりという、需要と供給の両面から高い経済成長を支えたためである」と評価され、日米の経済逆転の真相を理解する助けになります(自著『反グローバリズムの克服』新潮選書2014年刊66頁)。

解説によると、ICTの分野は日進月歩で発展するため、製造業のように企業内訓練で熟練した労働者を育成したのでは対応できず、外部から専門的な人材を調達することが不可欠。それには長期雇用保障に縛られず自由に産業間、企業間を移動できる流動性の高い社会インフラが必要(①)。

これが企業の情報化投資の拡大と結びつくことで製造業だけでなくサービス産業の労働生産性が大きく向上し、それが企業利益を増やすことで、1990年代の米国の持続的成長が実現した、と解かれます

また、生産プロセスも多くの部品を作る中小企業を系列化してそれらを大企業で組み立てる集中管理型でなく情報ネットワークを駆使した分散型の仕組みが効果的(②)、資金調達も銀行中心でなく、高リスク高リターンの投資先を求めるリスクキャピタルが豊富な金融市場が大きな役割を果たす(③)•••。

要するに、①ヒト、②モノ、③カネのすべての面で日本型と逆の仕組みが米国で有利に働いたという分析だ。日本の経済成長を支えた好要素が裏目に出て失われた二十年につながったと整理されたのですから、今後は成功体験こだわらず、切り替えろということになりますね。

それが日本人にとって、成功につながる選択なのか、幸せになれるかどうか、はまた別の話になります。


東京の地理に通じるコツは、下町では橋を、山の手では坂を覚えることだ

東京の地形や地質に関する基本文献として三十年以上も読み継がれてきた『東京の自然史』の著者貝塚爽平先生がタクシーの運転手から聞いた話として紹介されている(講談社学術文庫23頁、同書は先生が都立大の講義案として執筆されたもので一般読者にも興味深い)。

関連部分を引用する。「山の手台地の東の縁が下町低地に面して崖を連ねるあたりには、車坂、昌平坂、九段坂、三宅坂霊南坂などが、少し奥では、目白坂、神楽坂、紀伊国坂、行人坂など著名な坂がある」。

「山の手は谷によって分断された台地群よりなっているが、それが東京の中心部である旧市内を起伏にとむ町にしているわけであり、また東京に坂の多いゆえんでもある」。

山の手台地と下町低地、そこに谷があり坂道ができる。江戸そして東京はこうした自然の地形を生かして都市づくりを進めて来た。この数世紀の営みを探訪することが、現代人の街歩きの大きな魅力といえるでしょう。

「山の手」という語も、今は武蔵野台地を含めて用いることが多いけれど、かつては国電環状線(今のJR山手線)内の台地をさしたそうで、池袋新宿渋谷を結ぶ山手線の西側は、東側に比べて台地を刻む谷が少なく、また谷の切り込みも浅くて、台の付く町名も多くない、と先生は解説されています

「安全保障上、サイバー空間は陸•海•空•宇宙に続く新しい領域です•••」

日経ビジネスonline2014年09月02日に掲載された内閣官房情報セキュリティセンター副センター長T氏の談話です。

私も含めて未だ耳慣れない言葉、「安全保障上」と前置きされると身構えてしまいそうですが、そもそも「サイバー空間」って何でしょう。支配したり占領されたりする領土のようなものなのでしょうか。

国の法律であるサイバーセキュリティ基本法にも、その定義はありませんが、「電子的方式、磁気的方式その他、人の知覚によっては認識することができない方式により記録され、又は発信され、伝送され、若しくは受信される情報」に関わる「情報システム及び情報通信ネットワーク」によって構成されるもののようです。

「昨年は256億件とサイバー攻撃が急増」という政府機関発表の報道には驚かされました。私たちの生活も含めて広く国の安全を脅かす懸念が高まっているのは確かにそのとおりです。

国境がなく、国の内側か外側かを区別することが難しい「サイバー空間」、その意味で海洋や宇宙空間と並ぶグローバルコモンズ(国際公共財)と位置付け、そこでの情報の自由な流通や経済社会を支えるITインフラの安全を確保する国際的なルール作りを進めることが急務だと思われます。