東京の地理に通じるコツは、下町では橋を、山の手では坂を覚えることだ

東京の地形や地質に関する基本文献として三十年以上も読み継がれてきた『東京の自然史』の著者貝塚爽平先生がタクシーの運転手から聞いた話として紹介されている(講談社学術文庫23頁、同書は先生が都立大の講義案として執筆されたもので一般読者にも興味深い)。

関連部分を引用する。「山の手台地の東の縁が下町低地に面して崖を連ねるあたりには、車坂、昌平坂、九段坂、三宅坂霊南坂などが、少し奥では、目白坂、神楽坂、紀伊国坂、行人坂など著名な坂がある」。

「山の手は谷によって分断された台地群よりなっているが、それが東京の中心部である旧市内を起伏にとむ町にしているわけであり、また東京に坂の多いゆえんでもある」。

山の手台地と下町低地、そこに谷があり坂道ができる。江戸そして東京はこうした自然の地形を生かして都市づくりを進めて来た。この数世紀の営みを探訪することが、現代人の街歩きの大きな魅力といえるでしょう。

「山の手」という語も、今は武蔵野台地を含めて用いることが多いけれど、かつては国電環状線(今のJR山手線)内の台地をさしたそうで、池袋新宿渋谷を結ぶ山手線の西側は、東側に比べて台地を刻む谷が少なく、また谷の切り込みも浅くて、台の付く町名も多くない、と先生は解説されています